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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和56年(ネ)124号 判決

控訴人(原告) 株式会社香炉園

被控訴人(被告) 岡村あや子

原審 金沢地方昭和五五年(ワ)第三七九号(昭和五六年八月六日判決、一三巻二号五九〇頁参照)

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は「香炉園」の商号を使用してお茶の売買をしてはならない。被控訴人は「香炉園」と記載した店頭の看板を除去し、取引上使用する一切の文書に「香炉園」の名称を使用してはならない。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同じであるからこれを引用する。

(控訴人の主張)

(一)  商法二〇条一項は、商号の登記をした者は不正の競争の目的をもつて同一又は類似の商号を使用する者に対してその使用の差止めを請求することができる旨規定し、同条二項は、他人の登記した商号を使用する者は不正の競争の目的をもつてこれを使用するものと推定する旨定めているのであるから、本件においても、被控訴人に不正の競争の目的の存したことが右規定により当然に推定されるのである。

のみならず、被控訴人は従来控訴会社の代表取締役の職務代行者として同会社の実権を掌握していた者であり、その地位を喪失した後に引き続き控訴会社の商号を使用し、従前の得意先を対象として営業をしているのであるから、被控訴人に不正競争の目的があることは明らかというべきである。

(二)  控訴人は本件差止請求を認容する判決が確定すれば本格的にお茶の卸販売を開始するつもりであるが、それまでの間は被控訴人との間に取引上の混乱を生じたり、感情的対立が激化するのを避けるため、小売だけにとどめ卸売を差控えてきたのである。そして、このように控訴人の営業の開始が将来であるとしても、商号の使用の差止めを請求することが許されると解すべきである。もし、当該営業について事実上の競争関係が存在することが必要であるとすれば、控訴人の営業の開始により被控訴人の営業との間に無用の混乱を生じ、法秩序の紊乱を招くことになるのであつて、とうてい是認できない見解というべきである。

(三)  被控訴人は前記のとおり控訴会社の代表取締役の職務代行者であつたが、その後右地位を喪失したものである。そして、右地位を喪失した以後は被控訴人において控訴会社に属した一切の権利義務を同会社に引渡す義務があり、控訴会社の商号も右引渡しの対象となることは明らかである。そうすると、被控訴人が右義務を履行することなく、控訴会社の商号を使用することは許されないというべきである。

(被控訴人の主張)

控訴人の右主張はいずれも争う。

(証拠)〈省略〉

理由

当裁判所も原審と同じく、控訴人の本訴請求は理由がないから、これを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決理由に説示するところと同じであるから、これを引用する。

(一)  控訴人の当審における前記主張にかんがみ、当審において援用した前記証拠を併せて審究するも、前記認定・判断(原判決理由引用)を動かすに足りない。

(二)  なお、控訴人は、被控訴人が控訴会社の代表取締役職務代行者の地位を喪失したのにかかわらず、控訴会社の商号を引渡すべき義務を履行することなく、右商号を使用することは許されない旨主張する。

しかしながら、被控訴人に控訴人主張のごとき債務不履行が存する事実は本件におけるあらゆる証拠によるもこれを認めるに足りないのである。のみならず、控訴人が被控訴人に対し商法二〇条に基づき本件商号使用の差止を請求することが許されるか否かは同条の定めるところによつてこれを決すべきであるところ、前記認定・説示(原判決理由引用)したところによつて明らかなごとく、控訴人は右差止を請求する権利を有しないものというべきである。控訴人の右主張は採用のかぎりでない。

よつて、右と同旨に出た原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 黒木美朝 川端浩 松村恒)

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